
18世紀イタリア。ある田舎の家庭に、7人兄弟の末っ子としてアントニオ君というかわいい男の子が生まれました。
貧乏ながら、家族全員仲良く暮らし、やんちゃなアントニオ君はすくすくと元気に育ちました。
彼の何よりもの楽しみは、教会の合唱団で歌うことでした。村一番のボーイソプラノとして村の大人たちにかわいがられ、
歌っている時間を一番幸せと感じるようになりました。
(※教会で女性が歌うことは禁止されていたので、高音は変声期前の男の子たちが歌っていました。)
ある日、隣町のいとこが遊びに来ました。
「ボクの教会には、すごいお兄ちゃんがいるんだよ!もう大人なんだけどね、アントニオよりもきれいな声で歌うんだ!
でね、この前王様の前で歌って、大金持ちになって帰ってきたよ!」
アントニオ君の母親が、これを隣の部屋でじっと聞いていました。
実はもう貯金が底をつき、危機を迎えていたアントニオ君一家。
母親は将来が不安で、眠れない日々を過ごしていたのです…
そして、ある日…
アントニオ君はお母さんに連れられて、村の端のある店へ行きました。
「アントニオ、あなたはずっと、この天使のような声を持つことができるのよ!
たくさん練習して、上手になれば王様の前で歌ったりもできるようになるのよ!」
母親の頭には名誉とお金しかないことを知る由もなく、
アントニオ君は美しい音楽を夢見て、「去勢手術」のドアに入って行きました…
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アントニオ君のようにカストラート(「去勢された者」)となった人が毎年何千人と現れました。
しかし!400年前の医療技術では、手術中に失敗したり、後で感染症になったり、親の欲望の犠牲となり命を落としてしまう子供も多数いました。
手術には成功したものの、歌手としての才能がなく、無駄に去勢され、一生後ろ指を指されながら生きていくことを強いられた人もたくさん現れました。
そんな中、過激なトレーニングに耐え抜き、カストラート歌手として成功した一握りの男性は
絶大的な人気を誇り、
今でいうロック・スターのような存在となりました。
歴史上もっとも有名なカストラートともいわれるカルロ・ブロスキ(通称ファリネッリ)は、
3オクターブ半もの音域を持つ美声を自由自在に操り、ヨーロッパ中を熱狂させました。
彼はその歌声で観客の女性を失神させたと当時の新聞記事は伝えています(!)


ブロスキの波乱万丈な人生をもとに、1994年には「カストラート」という映画が作られました。
1995年のゴールデン・グローブ賞で「外国語映画賞」を受賞しています。
19世紀に入ると、それまでは教会や劇場内で歌うことが禁止されていた女性歌手が登場し、
カストラートの居場所は、すべてソプラノ歌手に追いやられるようになくなっていきました。
そして遂に19世紀半ば、ローマ教会は「医学的に必要性のない去勢」を禁止とされ、
一時は眩し過ぎるほどに輝いていた存在が、姿を消しました・・・


“Whoever has not heard Carestini is unacquainted with the most perfect style of singing.” -Hasse
「カレスティーニを聴いたことのない人は、
完璧な唱法を知らない」
-ハッセ(作曲家)
バロック時代を代表する作曲家、ヘンデルのオペラハウスに呼ばれたのはファリネッリではなくカレスティーニでした。
技術的にはファリネッリが勝っていたかもしれませんが、カレスティーニは人々を感動させる美しい声質の持ち主であったと言われています。
そして現在、「カレスティーニの再来」といわれるアーティストがいます。
フランス出身の若きカウンター・テノール、フィリップ・ジャルスキーです!
昔のカストラートが歌っていた曲を生まれ持った声のまま軽々と歌いあげてしまうんです。
ヨーロッパで旋風を巻き起こしている、ノリにノっているまさにスーパースターです。
※ちなみに、彼のしゃべる時の声は普通の男性の声です。
またこのギャップがたまりません~!
アンサンブル・ベルリンで共演したベルリン・フィルのメンバーも「彼は才能に溢れた好青年だ。」と絶賛していました。
彼の人柄も人気の理由の一つかもしれません。
「天使の翼を持つ美声」と表現されるほど軽やかなその歌声で聴衆を魅了していますが、なんと、まだ
33歳!
2009年には「30歳以上の芸術家」にしか贈られない芸術文化勲章をフランス国家より授与され、
フランス版グラミーともいわれるヴィクトワール・ドゥ・ラ・ムジークも4回受賞しています!
2008年には当時カレスティーニが歌った曲ばかりを、ジャルスキーが歌い上げたCD 『A STORY OF A CASTRATO』で
「最優秀レコーディング賞」を受賞しています。
彼の実力はそれだけではありません!
2010年にはパリのシャンゼリゼ劇場で7公演に出演し、すべて完売!!
年に同じ会場で7回も大成功を収める事が出来るのは今、ジャルスキーしかいません。
2011年も3月にシャンゼリゼ劇場でヴィヴァルディの歌劇『オルランド・フリオーソ』6公演に出演予定です。
7月に来日のフィリップ・ジャルスキー。
類稀な歌声を聴き逃さないでください!